――――――――【仲直りの夕飯時】―――――――――
来てくれる筈なんて無いと思ってた。
マコトさんが電話をかけたのがアンタだってのも、全て冗談だと思ってた。
ほんの少し逢ってなかっただけなのに、どうしてだろうな。
アンタの声が聴けて、その鼓動をまた感じることが出来て。俺、今凄く嬉しいんだ。
きっとソレはアンタの顔を見れた所為。
嗚呼、人間って奴はどうしてこんなに現金なんだろ。
落ち着いた店内。
目の前に置かれた湯気の立つ珈琲を口に含みながらマコトさんは柔らかく微笑んだ。
一言二言と交わすのはたわいの無い話ばかりで、あの夜見た事を忘れる事は出来そうに無い。
けれど、さよならと告げたアンタの声は何時までも俺の耳に残っていた。
泣き腫らした目についてはマコトさんはあえて触れず、その優しさにまた壊れた涙腺が緩んだ気がした。
アンタも、俺に凄く優しかったもんな。
あの時はたまたま、ああいう現場に居合わせちゃった所為でパニックになったけど…。
「…喧嘩でもしたんでしょう?」
「え…っ」
いきなり核心を突くマコトさんの発言に、思わず飲んでいたココアを噴出しそうになる。
その様子を苦笑を浮かべて見ながら、彼の事だからそのうちこうなるんじゃないかと思ってた、と告げた。
「…マコトさんは、何か…知ってるんですか…?」
「…知らないよ。何も」
「何も、ですか」
「うん」
にっこりと柔らかい笑みで牽制されている気がしてならない。
けれど、これ以上深くを聞けるような雰囲気では無かった。
どうしようかと口ごもっていると、すっと取り出したのは携帯電話。
何をするんだろうと見つめ続ければ、マコトさんは数回ボタンをプッシュし、俺に向かってウィンクをした。
――――――――静かにしててね、と言うのを忘れずに。
「もしもし?ぁ、KKさんですか」
…!? まさか、この流れで彼に電話をかけるなんて思いもしなくて。
電話口から微かに聞こえる、彼の声に思わず笑みがこぼれた。
まさかそれが彼を此処へ呼び出す電話だなんて、思いもしなかったのだけれど。
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君がくれる言葉のヒトツヒトツが俺にとって救いになっている事に。
…君は、気づいているのだろうか。
3.9 七弦