――――――――【妥協する昼休み】―――――――――





耳を塞いでも脳内に響くアンタの声。
泣いてちゃ何も解決しない事を俺はもう知っている筈なんだ。
従ってばかりじゃ対等な恋とは言えないだろ?
まだ、起きてもいない事に対して怯える日々はもう十分。
嗚呼、人間って奴はどうしてこんなに単純なんだろ。





腫らした目元を擦り、気を取り直すとばたばたと支度に掛かる。
昨日着っぱなしで寝てしまった制服は多少皺になっていたけれど、この際気にしている暇は無い。
インナーと中のシャツだけ着替え、散乱する荷物を適当に鞄に突っ込むと、勢い良く飛び出した。
朝の清清しい空気を胸いっぱいに吸い込み伸びをすれば、昨日の事など忘れてしまえるような気になる。
蹴り上げた空き缶はゴミ箱の横の電柱にヒットし無様に落ちた。
…チッ、シケてやがる。
カランカランと音を立て、道路に転がっていく空き缶を目で追う。


「…あ」

「……こんにちは、りゅーた君」




見慣れた靴に進路を塞がれて止まった空き缶。
すらっと伸びた足から目線で辿れば、見慣れた顔。

「マコ、トさん。あっ、こんにちは…」




鍔の広いテンガロンが太陽の光を遮って出来た影の奥で、優しそうな瞳が細まった。









「ちょっとだけ、お兄さんとお茶しない?…なんて」





人懐っこい笑みに誘われるまま、俺は思わず頷いていた。
差し出された手に戸惑いつつ、そっと手を添えればひんやりとした冷たさが伝わる。

ぁ、ごめん俺冷え性なんだ、と目の前で笑うマコトさんの言葉と体温が、昔のアンタとダブって見えたなんてのは









…きっと俺の勘違いだ。





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思い出さなければ、忘れられると思っていた。
忘れてしまえれば、全てなかった事に出来ると思っていた。
              
              1.18  七弦
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