――――――――【無視しあう正午】―――――――――



全て俺の所為にしてあらゆる罵詈雑言で罵って。

アイツは一つも悪くは無い。悪いのは俺だけで良い。俺だけで十分なんだ。

いくら努力したって報われる保障はこれっぽっちも無いのだから。

手に入れたいモノを諦めるのもまた一つの手段なのだと思う。

嗚呼、人間って奴ァどうしてこんなに弱いんだろ。






『ケケ…さん、俺…っ』

アイツの深い瞳に広がっていく怯えの色。
はっきりと分かった。アイツはこっちの世界に巻き込んじゃぁいけないんだと。
傷つけたく無いのなら諦めるしか無いのだと。
…もう巻き込まないから。これ以上怖い目にはあわせないから。ごめん。…ごめん、な。
アイツの手が、足が、瞳が、震えた。
他の誰でもない、俺に怯えて、震えて居るのだ。
誰にも傷つけられる事の無いように俺が守ってきたって言うのに。

その俺がアイツを傷つける日が来るなんて、な。




『…良いんだ』

出来るだけアイツの負担を和らげてやりたい一心で、拒絶の言葉を吐き出した。
開きっぱなしにされたドアからは冷たい風が吹き込み、嫌に冷静な俺の頭を更に冷やす。
どうして、だろう。
目の前のアイツは大きな目からぽろぽろと涙を流しはじめる。
…どうして。




『俺、何も見てない、から…ねぇ、もう良いなんて、言うなよ…っ』


諤々と震える体を自分で抱き込み、この期に及んで何も見ていないと言う。
それがアイツなりの優しさで、そして精一杯の強がりなんだって事は分かった。





『もう、十分だ』



偽りの笑顔の下に隠した俺の本当の顔を、アイツはまだ知らないから。

隠しとおす事が出来ないのなら、俺はアイツから離れた方が良い。







『…サヨナラ、りゅーちゃん』




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必要とされる事に慣れすぎてしまった。
持ち主を無くした人形はただ棄てられるのを待つだけなのに。
              
              12.21  七弦
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