――――――――【喧嘩した午前中】―――――――――



鋭利な刃物を俺に向かって突きつけられた方がまだダメージは少なかった。

自分だけがこの世界に一人なのだという事実が突きつけられた気がした。

結局の所、俺は自分が可愛かっただけなんだろうと思う。

嗚呼、人間って奴はなんて馬鹿なんだろう。







…ケケさんの馬鹿ケケさんの馬鹿ケケさんの馬鹿。


部屋のベッドで布団に包まってからどのくらいの時間が経っただろう。
最初はぽろぽろと流れていた涙はいつの間にか枯れ、眠ってしまっていた。
目を覚ますともう辺りは明るくて、俺の心に妙なわだかまりを残したまま夜が明けていた。
…学校、休んじゃおうか、な。
ケケさんの今の清掃区間は学校の近くのビル。逢いたくなくても目に付くのはわかっている。
大きな溜息を吐くけれど、もやもやした気持ちが吐き出される事は無く、重たい足を引き摺りながら洗面所へと向かった。
ケケさんの家から飛び出し、家に着くなりすぐベッドへと倒れ込んだ所為か、泣き腫らした瞼が痛々しく鏡に映る。 

…かっこ悪ぃ…







鼻をつく臭いが充満している室内。
学校から帰ってきた俺がいつものように足を運んだケケさんの部屋は、
外界と隔離された一つの世界のように俺の目に映った。
ドアを開けた先に在ったのは見事なまでの狂気。
ある種の芸術のように其処に存在していた。
玄関から部屋へと続く赤黒い液体の羅列。
転々と繋がるソレはドアから差し込む月明かりに照らされ妙な輝きを放つ。
息苦しいような錯覚を覚えた。
脳内に鳴り響く警告の音。本能が、此処から今すぐ立ち去れと命じている気がする。
一歩、また一歩。踏み出すたびにギシギシと鈍い音を立てる廊下。
暗い中手探りで電気のスイッチを探すと、小さく息を呑む音が聞こえた。
所々血に汚れたツナギを纏って、俺を見つめるケケさんと目が合う。
…嗚呼、どうしよう。





「…りゅー、ちゃん」


ドクン、俺の中で心臓の音が一際大きく木霊する。
どうしようどうしようどうしよう。思考回路が麻痺しそうだ。
…裏の仕事の事は聞いていたけれど、実際前にするとちょっと、キツ、イ。
目の前に居るのはケケさんだと脳内ではわかっているつもりなのに手足の振るえが止まらない。





「違うんだ、りゅーちゃん。コレは…っ」

「…っ!」






差し伸べられた手に思わずビクッと肩を竦めてしまう。









しまった。後悔してからじゃぁもう遅い。





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全て砂糖でコーティングして?
自分の都合の良いように解釈して?
そんな甘ったれた世界が長持ちするとは思えないね。
              
              12.21  七弦
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