――――――――【無題】Rainbow after the rain/2―――――――――


夜半すぎの冷えた空気が足元に絡みつく裏路地を抜け、
駆け抜ける足は自然と歩幅を広げていた。

もっと早く。もっと、もっと。

何かから逃げる様に俺は走る。
別に何かから逃げているワケでもないけれど、
自然と走る速度が増していた事に気づかないフリをしていた。
もう草木すらも寝静まった街を抜け。
未だ煌々とネオンが揺らめく歓楽街を抜け。
ただひたすら、走り続けた。

何処に俺は向かってるんだ。

自分でも行き先すらわからない。
この足が何処に向かっているかなんて、
そんな事はむしろどうでも良かった。
もしかしたら急ぐ必要は無かったのかもしれない。
もしかしたら走る必要も無かったのかもしれない。

誰に?何を? 俺は何の為に走ってる?

目的地も無いままに走り続けるのにも飽きてきた。
そう若くもないのだから、そろそろ足腰辛いかもしれない。
でも、走る足を止める事は無かった。


とある路地を抜けた先の
排気ガスにまみれたコンクリートジャングルには珍しく
適度な湿り気を含んだ土を撫でながら吹く風が酷く心地よい。
月明かりに照らされた空き地。

「何処まで行かれるおつもりですか?」

不意に掛けられた声。凛と一筋通った声は、静けさを際立たせた。
「…誰だ」
不躾な態度も、この相手にはきっと許されるだろう。
何しろ、相手はまだ姿すら見せてはいないのだから。
「心外です、ミスター…私の事をお忘れになりました?」

ふわり、と。 微かな光に包まれて宙に浮かぶ姿は幻想的。
薄いレンズの向こうに隠された深い色合いの瞳には
ほんの少しの胸の痛みと、どこかで感じた懐かしさを思い出させた。
「…以前に逢ったか?物覚えは良い方なんだが、悪ぃな…どうやら忘れちまったみたいだ」

さっきまで留まる事のできなかった足が、まるで地に縫い付けられたかの様に動かない。
視線を逸らしても絡み取られ、俺の逃げ場は此処には無いのだと悟った。


「そうですか。…貴方は嘘をつくのが上手い方だ」

柔らかく、尚且つ嘲笑とも取れる笑みで、相手が笑う。



嗚呼。この笑みからは逃げられない。





「…意地が悪いぜ、ナァ?」

「貴方ほどではありませんよ」



そうして俺は その名前を口にする。
全ては奴の思惑通りだ。

もう。逃げる事は出来ないのだから。





TO BE...?


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一番逢いたくない相手ほど、
実は一番逢いたい相手でもある。

              
              11.1  七弦
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