―――――――――――【無題】-Coffee break-―――――――――――

その手の温もりに触れる事が出来るなら、俺はアンタに傅いても良いとさえ思うよ。




時計の音だけが無情にも過ぎていく日曜の午後。
折角のオフだと言うのに何処へ足を運ぶ訳でもなく俺はただソファに座り、新聞を広げて暇な時間をやり過ごした。
随分と時間が経ったようで、吹き抜けるように澄んでいたはずの青空はいつの間にかオレンジ色に染まっていた。
斜め向こうで頭を抱えるショルキーを休ませようと声をかける。


「もうそろそろ休憩を挟んだらどうだ」


唸り声を返事で寄越してきた。
どうやらまだ納得のいく詩が書けていないようだ。
もう暫く立ち上がる事の無い背中を身ながら、俺は深く溜息を付いた。
…仕事のし過ぎだって体に毒だって言ってンのに。
床に散ばる楽譜を整頓しつつ、ショルキーの背中に圧し掛かる。


「っぐう…」
「色気のねぇ声出すなよ…」
「俺は、疲れてるんだ。分かったら邪魔するな」
「だーかーらー、休めっての。体壊したら元も子も無いだろ?」


成人男性とは言え、人よりは細めのショルキーに俺の体重が支えきれる筈も無く、潰された蛙みたいな声を上げる。
疲れていると主張している通り、サングラスの奥に隠された瞳が隈で縁取りされているであろう事は想像が付いた。
だからこそ俺は諦める訳にはいかず、数分に亘る説得により何とか少しの休憩だけは取らせる事が出来た。
徐にサングラスを外し、テーブルの上に置いたショルキーの指は細いながらも、
キーボードを弾く時にだけとても起用に動くのを俺は知っている。

俺はそんなショルキーの指が、手が、好きだ。




「…珈琲、淹れてくれないか」
「はいよ」


キッチンへ行き、ふと考えた。
折角だ、働き者のアイツの為に極上のを淹れてやろう。
戸棚上部にマグカップと並んで収納されていた茶色い瓶を取り出す。
テキパキと手馴れた様子で一連の作業を終えると、ショルキーの待つリビングへと戻った。

ちゃんと俺の言った通り、机に向かう事を中断しソファへと場所を移したショルキーを見て愛しさが込み上げる。
両手に持つマグカップからは温かい湯気が立ち上り、鼻腔を擽る良い香りが部屋の中に広がった。



「どうぞ、ショルキーはこっち」
「有難う…って、ねえ、コレ」


手渡したカップに淹れたのは、珈琲ではなく甘い甘いココア。

甘ったるい香りに、矢張り飲む前に気づいたようだ。
疲れているであろうショルキーに、俺が今してやれる唯一の事。




「疲れた時には、甘いモンが良いって言うだろう?」




ニヤリ。悪戯っぽく微笑みながら、熱いから気をつけろよ、と最後に付け足すのも忘れずに。
今手に取っている熱いココアでさえ、俺の心に滾る熱情よりは熱くはないと思う。





「ホント…良く言うよ」


温かいココアを最後の一滴まで綺麗に飲み干して、
とても美味しかったと、笑ったショルキーの顔が少し紅に染まった気がした。

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コレで一本、漫画が描きたい…。
Kショルどうですか。広まりませんか。マイナーだもんなぁ…;
              
              12.3  七弦
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