――――――――【無題】Gentle lie―――――――――


「じゃぁ、行ってくる」

その声に感情はこもってなかった。
闇に冷たく光る眼は、どこか寂しそうで。

「ねぇ、行かないで―…って言ったらどうする?」

少しでも良い。
ちゃんと俺を見て欲しくて。

「―…」
「…冗談だよ」
「そうか」

「行ってらっしゃい」

「嗚呼、今日も遅いから先に寝てろよ?」
「うん―…」
「…何だ?」

「なんでもない」


俺は、嘘を付いた。
なんでもない?ううん、なんでもないなんて嘘。
いつもアンタが出かける行き先も知ってる。
帰ってきてからすぐお風呂に入る理由も知ってる。
…今だって、黒いツナギに不釣合いなアタッシュケースの中身が

拳銃だって事も

俺は知ってる。


アンタの生き方、表の顔も裏の顔も。
知ってるからこそ「生きて帰ってきて」なんて事、言えないんだ。


「何だ?変な奴だな」


アンタは俺に優しい。
まるで壊れ物を扱うように接してくれる。
だけど俺はそれじゃぁ物足りない。
アンタの仕事ほどのスリルを求めるわけじゃないけれど。

「そろそろ時間だろ?急がなくて良いのかよ」

張り付いた笑顔で話すのももう慣れた。
いつから俺は心から笑えなくなったんだろう。
きっと、気づいてるでしょ?


「そうだな…おやすみ、リュータ」

「うん。おやすみ、KKさん」


裏の仕事に行くアンタはいつも寂しそうだ。
何処にやるでもない怒りを俺にぶつければ良いのに。
アンタになら、いくら酷くされたって良い。


「ぁ、ちょっと待って」
「―…どうした?」


「俺を殺してって言ったら…どうする?」


アンタは一瞬驚いた顔をして。
「冗談だろ?」と、苦笑していたけれど。
俺は本気だったよ。
だけど、それを言えばアンタはきっと悲しむだろうから。


「冗談、だよ」


また一つ、嘘をついた。


「サヨナラ、KKさん」
「嗚呼…また明日」



いつか、アンタが俺に銃口を向ける日が来ても、
それは仕事上、仕方のない事だから。
俺はアンタを恨んだりしないよ。


その拳銃が俺に向けられても、

きっと俺は笑ってアンタにサヨナラって言えるだろうから。




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人と思いを共有する事が悪い事だとは思わない。
だがそれはとても難しい事だ。本当にね。

              
              11.1  七弦
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