――――――――【無題】The death starts.―――――――――


アノ人の言葉に一喜一憂する俺は
アノ人の目にどうやって映っているのだろう。

この胸にある不確かな想いの処理の仕方がわからない。
誰かに言う事も出来ず、何かに八つ当たりする訳にもいかず。
ましてやアノ人に全てを打ち明けるなんて出来るはずもない。
臆病者の俺を嘲笑うかのように、今日もまた。
打ち明けることなく時は過ぎ暮れてしまう。
…言ってしまえたら、楽だろうか。
バイト帰り、薄暗い岐路を辿る。
道の端にある電灯に群がる虫を横目に、深くついた溜息は白く色づいた。
言える訳、無い。
少し冷えた秋の空気が肌を撫でる。
見上げた空に浮かぶ月は遠くて、俺とアノ人の距離もこのくらいなのかな と。
柄にも無く考えて少し涙が出た。
今、何やってんだろ…。
帰り道にあるアノ人の住むアパート。明かりが灯っていない二階の一室。
まだ帰っていないのか、はたまたもう寝てしまったのか。
階段を上がった一番奥。
呼び鈴を押す事無く、ドアの前にしゃがみこんだ。
アノ人の部屋の前から見上げる月もまた、悲しくなるほど綺麗で。
もう寝てしまっていても構わない。
…此処に居たらいつか逢えるもんな。
そう、いつか。

「…ーちゃん…りゅーちゃん、起きろー」
どのくらいの時間が経っただろう。
重たく閉じようとする瞼を開く。
夜の闇に紛れる様な黒いツナギに、目立ちすぎる金色の髪。
「…ケケさんー…?」
冷えすぎた指先を相手の髪に寄せて、確かめるように絡ませた。
「お前ナァ…こんなトコで寝たら死ぬぞ?」
たまたま俺が用事から帰って来たから良かったものの、と
目の前のアノ人は苦笑交じりに呟いて。
「ホラ」
差し伸べられた手と、その顔を見比べる俺にアノ人は、
「部屋、入るンだろ?」
さも当然と言う様に笑った。月明かりの下。綺麗な笑みで。
「あ、うん…入る」

その時感じた甘い痛みを。
この胸に滾る情動の名前を。
今も尚溢れる不確かな想いを。

そしてアノ人のツナギに滲む赤黒い液体と、苦痛を耐えている様な表情も。

全て見なかったフリをして、



俺は静かに 目を閉じた。




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あの時の俺にこの終末が見えていたとしても
再びふと現実に苦しみ、嘆く時を静かに密やかに待つのだろう。
              
              11.1  七弦
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